2025.05.31
大学の屋上を“食べられる森”に。学生の「やってみたい!」が発揮される「有明rooftopコモンズ」
[公開日 2025.11.07]
Interview :明石修〈武蔵野大学工学部サステナビリティ学科准教授〉
Interviewer:江澤哲哉
「大学はどんなところ?」と聞かれたら、何を思い浮かべるだろうか。
学ぶところ、授業を受ける場所、就職予備校、友人と過ごす時間…さまざまあるのではないでしょうか。そんな中、今回紹介するのは、武蔵野大学有明キャンパスにある屋上ガーデンです。
ここでは、ミツバチを飼い、はちみつをいただき、野菜だけでなくハーブを育てたり、スペースをDIYしたり、大学内のカフェから出る生ゴミは堆肥化したり。なんだかわくわくする取り組みが始まっています。
屋上に上がると緑いっぱいの植物たちに囲まれ、涼しい風が流れてきました。

約600平方メートルの空間に野菜や果樹が実り、ミツバチが飛び交い、学生たちは土に触れたり、寝転んでみたりと思い思いに時間を過ごす。ここは武蔵野大学工学部サステナビリティ学科教授の明石修さんが手がける「有明rooftopコモンズ」です。
「僕は今、サステナブルで再生的(リジェネラティブ)な社会に向けて、人を育てたり、それに向けての研究を行っています。」と語る明石先生。
その活動の中心となる屋上では、まさに「人と自然が共に再生していく」循環が生まれています。
元々は芝生だけだったところを再生することから始めたという明石先生に、屋上ガーデンのこと、きっかけとなった原体験や誕生秘話、そして未来への展望を伺いました。
気候変動などの環境の喫緊課題、そして孤立感などが増す現代社会において、学べることがたくさんありました。ぜひ最後まで読んでみてください!
明石修(あかし・おさむ)
武蔵野大学工学部サステナビリティ学科准教授
京都大学大学院地球環境学舎修了、博士(地球環境学)。国立環境研究所特別研究員を経て、2012年に武蔵野大学環境学部に着任。気候変動をはじめとする環境問題は現在の社会や経済の仕組みが生み出しているという問題意識から、サステナブルな社会や人の暮らしの在り方について研究を行っている。近年は、パーマカルチャーという手法を用いて、都会において人と人、人と自然がつながるコミュニティづくりの実践を学生と共に行っている。
有明rooftopコモンズの誕生秘話
この屋上ガーデンができたのは2015年のこと。提案したのは明石先生一人だったけれど、そこには多くの人の協力と応援がありました。
「ちょうど、武蔵野大学のキャッチフレーズを考えようというメンバーに参加してて、全学部から若手教員や職員を集めて議論をしていました。」
教授になる以前、明石先生は国立環境研究所で地球のシミュレーションをしていたそう。「地球で人類がどう発展していって、2050年はどうなるのかと。やっぱりシミュレーションするとどんどん環境は悪化するんだよね。どんなに技術が発展しても大変なことになるという結果しか出ない。ても、人類が頑張って対策してきったケースを同時にできるモデルを作って、それをやると、すっげえめちゃくちゃ頑張ったら破滅的なことを回避できると。」
なんとかなる未来が見えてきたこともあり、教育や実践に関わる大学に移ってきたと言います。教授になってからパーマカルチャーを知り、「あ、これだ!これがやりたかった!」と思いPDC(パーマカルチャーデザインコース)を受けて学ばれました。絶対あの芝生をパーマカルチャーのフィールドにしたら良いじゃん!自然が再生していくようなことをやりたい!と思い、とにかくいろんな人に話しまくっていくことで理解を得ていきました。
そして2015年、SDGs採択の時期と同時に、武蔵野大学のキャッチフレーズが「世界の幸せを形にする」に決まりました。“お題目だけじゃなくて、実際に動いていくにはどうしようか” となったとき、幸せ研究所というのを作ることになって、その時どんな研究やるかとなった時に提案したのが「屋上ガーデン」だったと言います。
「武蔵野大学は仏教の大学で、いろんなものが繋がって、生かし合ってできていくという循環の世界観がありました。仏教的な考えをもっとやっていきたい!という流れを活かして、学長と生きとし生けるものが繋がりあう世界を実現する場所を作りましょう。と話して実現していきました。」死んだものだとしても、他の生き物が食べて、それが土を育み、野菜が育つ。それを人間が食べる。「そういう循環を作りましょう!と出して笑」
学長も「よしやろう!」となったのが2017年、そこから屋上は変わり始めました。
学生の「やってみたい。」が場を豊かに
以前から学生のプロジェクトでセイヨウミツバチを飼っていて、まずはこの巣箱を屋上に持っていくことから始まりました。
「ハチってすごい受粉をしてくれて生態系とってすごい大事な存在なんです。」と語る明石先生。
「その蜂がいることで、プラムとか、かぼちゃとか、実がなるものはよくなるようになって。取った蜂蜜を自分で食べたりとか販売したりして。得た収益で屋上を運営したりしています。」
ハチがいることで実りも良くなり、はちみつからは経済的な循環も組み込みながら学生たちと関わるという、ガーデンを起点に、机の上ではできない広がりを見せています。
ハチの他にも、学生のプロジェクトが主体で行うコンポスト(堆肥化)の取り組みがあります。
大学のカフェ「ロハスカフェ」から出る生ごみ、地域のコーヒーショップから出るコーヒーかす、屋上で出る草などを混ぜてコンポストを作り、堆肥として活用しています。
さらに、学生が企画したものとして、ロハスカフェで出るトマト缶をプランターにしてハーブを育てるワークショップを実施(無印良品とコラボ)、竹チップを使用したコンポストの実験、自然を人の力で拡張する農業、「協生農法」の実験をしている学生もいます。

生ゴミやコーヒーかすを堆肥にしているコンポスト

協生農法の実験地区のようす。トマトとバジルの組み合わせが見られる。

最近やってきたというニホンミツバチ。学生がやりたい!と言い出して発信をしたら、知り合いの農家さんからちょうど余っていていただけることになったそう。

物置き古屋の屋根に降った雨を貯めるタンク。ファーストフラッシュというしくみで水を綺麗にし、水やりなどに使用している。
人と自然が共に進化するしくみができた
プロジェクトの授業が週に1度あり、その日は一日中屋上を使うことができます。
明石先生は、やっていくなかで“学生が屋上という場を使いながら、また学生も、そして屋上も豊かにしていっている”。つまり、人と自然を同時に豊かにしていることに気づかれました。
「結構、あの屋上で人生変わりましたってひとがいるんですよ。人見知りで人の目を見て話せない学生が、初めて食べたキュウリの味に『電撃が走った』って。そっからすごい農業に興味もちはじめて、農家に通うようになったり、ファーマーズマーケットでバイトするようになったり。卒業後は地方に移住して地域の活動をしてる」
別の学生は、屋上で椅子や机を作るうちにものづくりの楽しさを発見し、クリエイティブ系の仕事に就いたといいます。
「自然を対象と見てそれを守りましょう、というだけじゃなくて、自分も一緒に変わっていく」
環境を良くしよう!というだけでなく、そこがコミュニティの機能が出てきたり、内に秘めていた力が湧き出す場所にもなっているようです。
「ここに遊びに来るのめっちゃ面白いよ!畑やってる人もいるし、ものづくりしてる人も、生き物を観察してる人もいるし。収穫して料理してる人、ただぼーっとしてる人も、芝生で寝てたりとかも。
すごく大事にしているのは『その人が素でいられること』。屋上行ったら農業しなきゃいけないとかそういうことでなく、ほんとにやりたいようにいて良い」
たまたまドイツの小学校の教科書を読みたいという学生と、ドイツ人留学生が出会い、あおぞらドイツ語教室が開かれたこともあったそうです。
明石先生が大切にするこの自由さが、新しい出会いや発見を生む秘訣なのではないでしょうか。
「そういう場って、なにかが生まれたりもするんだよね。偶然」

明石先生が気になり始めたきっかけは「アボカド」
なぜ明石先生自身が、そのような想いをもって活動をすることにしたのでしょうか。それは、小学生の頃に体験したささやかな出来事にありました。
「小学校の時に、自分で食べたアボカドの種を植えたんです。育てようとして植えたんじゃなくて、なんかこう好奇心で植えた。
忘れてたら、しばらくしたら芽が出て、大きくなってた。そのときに、『このアボカドって、食べ物だというより、生き物だったんだ!!生きてたんだ!』と。そこで生き物としての力というか、自分で芽も出てきて。それがすごい感動した」
アボカドが、勝手に出てきたという経験をしたとき、“生き物自身は、自分で伸びていく力を持っているんだ”と気づいたそう。その気づきは、明石先生が学生たちとプロジェクトをするのと似ているといいます。
「アボカドが生き物として動いていたように、学生たちも生き物として“これやりたい“、“あれやりたい”ってそうやっていく。あんまり理解されないんだけど、僕は結構「人と自然を分けて考えてないっていうか、同じ生き物として見てて(笑笑)意思を持って伸びていく力があると。それをどう伸びる環境をつくるかってことに興味がある。」
「そういう伸びていく環境をつくるために、僕は心理的安定性を大事にしていて。なにかを発言しても馬鹿にされない、ちょっと人の意見が違くても言える空気をつくることで、勝手に繋がりが生まれ、繋がりから新しい可能性を産んでいくんです。」
データで証明された「環境再生」と「ウェルビーイング」
“屋上ガーデンでの活動は、野菜や育てる機能だけでなく、コミュニティや人がいきいきとすることとも繋がっている。”そう気づき、明石先生は、環境という側面を超えて、幸せ(ウェルビーイング)の研究もすることになったといいます。
「人のつながり、お互い様の気持ち、つまりウェルビーイングに与える影響を測定したところ、上がっていることがわかって」。
自然環境の再生も目に見えていて、生ゴミはコンポストで堆肥になり、トンボやチョウが増え、収穫物も得られる。「それだけじゃなく、人のつながりや幸せも上がってる。すごい、色んなものが再生してる場になっている」
この成果を受けて、明石先生は、街へと活動を広げ、地域の人たちとコミュニティガーデンづくりにも関わられているといいます。
自分でエネルギーも食料も作れない都市だからこそ、コミュニティガーデンをつくるという「人間らしさ」と「環境」どちらも豊かにする挑戦が、希望とともに前に進んでいます。

明石先生も設立に関わられた「循環型コミュニティガーデン協会」。たのしく持続可能な地域づくり=循環型コミュニティガーデンの普及に貢献していくことを目的に、今、取り組みが広がっています。
そもそもなんでSDGsが大切なんだっけ?
そもそもなぜサステナビリティが大事なのか。実践を重ねる明石さんに聞いてみると、意外だけどシルプルな答えが返ってきました。
それは、「自分も地球だから。自分も地球の一部だから。」ということ。
「地球を守るっていうのは、自分を守るのと一緒なんですよ。人間の体も1年でほとんどすべて入れ替わって。」
「その入れ替わるものは、元々は地球にあるもの、食べ物とか水とか。地球から来て地球に戻っていく。
だから地球を汚すってことは、自分を汚すのと同じ」
この視点から見ると、地球全体を健康に保つことが、自分を守ることにも繋がってくることが浮かび上がってきます。「その方が健康でいられるし、地球とも繋がれるし、コミュニティとも社会とも繋がれる」
それを考える上で、明石さんが理想とする社会のモデルは「森」だと語る。
「森が、サステナブルやリジェネレーションのモデルになると思う。森では鳥も虫もミミズも、いろんな生き物が全部繋がりあって循環している。鳥が食べたものがフンになり、フンを食べる虫がいて、それを微生物が食べて土が豊かになる。その仕組みにはゴミがない。」
『それぞれがそれぞれらしく生きていることが循環を生み出している』
地球という惑星の中で生きる私たちは、自然のしくみを生かして、地球を守り続けていくことを通して、私たち自身も豊かにしていくことができるのだと思います。
大切にする問い
最後に、明石さんが大切にしている問いを聞いてみました。
「どうしたら、人も含めた生き物が生き生きと豊かに繁栄する場をつくれるのか。生き物だけじゃなく、組織とかが、循環の力で繁栄していく場も。」
小学生の頃のアボカドから始まった問いは、今も明石さんの原動力となっています。人と自然が共に豊かに繁栄していく社会、それは決して遠い理想ではなく、屋上の小さな循環から始まる、手の届く未来なのかもしれません。
\「有明rooftopコモンズ」に行ってみたい方へ!/
毎週水曜日15:00~18:30にオープン。どなたでも参加できます。
参加する際は、有明roof top コモンズのInstagram @ariake.rooftop または明石先生のsns (Instagram: @akashi.osamu X: @akashiosamu1)までご連絡ください。
編集後記
約1時間のインタビューが終わったあと、僕たちはランチを食べながら雑談をしていました。ひょんなことから、パーマカルチャー世界大会in台湾の話に。世界のパーマカルチャーはユースが盛んだということを聞き、僕は俄然興味を持ちました。
インドでは、水不足に悩まされて井戸が枯れる事態に。パーマカルチャーを土台にコンテストを行った結果、数万トンもの水を土地に染み込ませることができ、井戸は復活した。他にも、東ティモールではパーマカルチャーが公教育になっている。という話を聞いた。
「そういえば、東ティモールでパーマカルチャーユース世界大会があるんだよね。」
「行きたいなって思った時は、行った方がいいんだよなあ。」
そんなことをぼやきながら、調べていきました。よし、行こう。
なんとこの度、パーマカルチャーユース日本チームを立ち上げて、東ティモールへ渡航することになりました。絶賛チームを編成中です。面白いメンバーが日本中から集まってきています。興味ある方ご連絡ください。(2025.08.26現在)渡航期間:2025年10月19日〜25日
足元を潤すことから始まる、パーマカルチャーの挑戦が始まります。記事もお楽しみに!
この記事を書いた人
リジェネラティブデザイナー/江澤哲哉(18)
生まれた時よりいい地球に!をテーマに、日々模索している高校生。“足元から人も地球もずっと元気でいられる世界をつくること”を目指して、さまざまな実践者を訪ねながら学んでいます。持続可能性にまつわるひと、もの、ことを映していくYouTubeの活動と、本マガジン「social roots」を運営する。岡山県美作市で活動する一般社団法人「と或る農園」の代表理事。

















