2025.06.01

森林が吸う二酸化炭素を“お金”に変える!? カーボンクレジット分野のスタートアップを創業した高校生の挑戦。


[公開日 2025.11.05]

Interview:豊田英杜 <森林界隈・代表>

Interviewer:江澤哲哉


「自分が自分でいられる場所は、森なんです。」

そう語るのは、N高等学校に通う高校3年生・豊田英杜(とよた えいと)さん。

17歳にして「森林界隈」というスタートアップを立ち上げ、ブロックチェーンを活用しながら、カーボンクレジットやブロックチェーンを活用しながら環境と経済が共に成り立つ新たな社会の実装に挑んでいます。

その原点には、林業を営む祖父の存在、幼い頃から親しんできた「森」での体験がありました。

今回は、そんな豊田さんのストーリーやきっかけ、取り組みについて伺いました。

豊田英杜(とよた・えいと)

2007年生まれ、東京都在住。N高等学校3年生。高校1年生からマーケティングや事業開発、DX推進に携わり、起業家としての経験を積む。林業を営む祖父との対話をきっかけに、環境と経済の共生に関心を持ち、「森林界隈」を立ち上げる。
カーボンクレジットやブロックチェーン技術を活用し、自然共創型経済の社会実装を目指す。

X(旧Twitter):@hachi888_hs

Instagram:@eito_shk


森林の価値を最大化する。

そもそも、「森林」にはどのような価値があるのでしょうか。

生きるために必要な“水や酸素の恵み”。建材やバイオマスエネルギーとしての木材。地球温暖化を防ぐ役割、レクリ
エーションやリラックス効果。
価値は多岐にわたります。

ただその一方で、今の林業は斜陽産業と言われ、国内木材価格の低迷や輸入材との価格競争も重荷になり、ただ木を
切り倒して運び出すだけでは赤字になってしまうと言われています。

今の林業は、県や市からの補助金がないとやっていけない厳しい現状にあります。1980年〜2022年で従事者数が約70%減少、高齢化と森の担い手不足の課題も深刻化しています。多くの機能があるのにも関わらず、このままでは
守っていくことが難しいのです。

そんな中、豊田さんが現在取り組まれているのは、「自然資本の価値を創出する」こと。その手段のひとつとして
今、豊田さんが注目しているのが「カーボンクレジット」です。

カーボンクレジットとは?

Carbon(炭素)Credit(信用・会計)──直訳すると「炭素のやり取り」。

森林などによるCO₂吸収や排出削減の取り組みを、基準に基づき「1トン = 1クレジット」として認証・取引できる仕組みのこと。

  • メリット

これまで評価されにくかった「環境への貢献」を、クレジットという形で価値化できる。

  • 懸念点

温室効果ガスの削減が難しい企業は、クレジットを購入することで“実質ゼロ(カーボン・オフセット)”を達成できる一方で、実態を伴わない取り組みとして“グリーンウォッシュ”と批判される場合もある。


森林は二酸化炭素を吸収する機能があると思うんですけど、温暖化や気候変動との解決策として「価値」が生まれている。それを活かすためにも、まずは『カーボンクレジット』の事業に手をつけました。」

豊田さんは、高校2年生のときに国内のカーボンクレジット仲介会社でインターンを経験。カーボンクレジットについて実践的に学ばれました。

そんな中で、ある違和感も感じたと言います。

仲介手数料が高く設定されていて、森林所有者にちゃんとお金が還元されていない。しかもその仕組みを作って利益を得ているのは、財閥系の既得権益層。これでは本末転倒です。」


この経験をもとに、自ら「森林界隈」を立ち上げ、学生ベンチャーとして仲介業務を請け負うようにしたと言います。

現場に足を運んだり、電話をしたりして森林の所有者に制度の仕組みを説明する。そんな「森の人と仕組みを繋げる」仕事を担っています。

「森林の所有者からすると、新しいものへの拒絶感とすごい不安があると思うんですよね。上からのお達しだと特に、実際どうしたらいい?と。そんな不安を解決することをしています。また、森林や森林の所有者にもっとお金が回る
ようにできたら
と考えています。」


その他にも、仲間とともにバイオ発電の会社を立ち上げたり、森林保全に手数料が還元される決済サービスと連携したりと多方面から、森の価値創出にアプローチしています。

2025年5月からは、パナソニックグループの主催で行われている若者のアクセラレーションプログラム「100BANCH」に採択され、インタビュアーをさせてもらっている僕も含めた5人の高3生と事業を手探りをしています。

森とのつながり。原点は、岩手・遠野

豊田さんの“森”とのつながりは、出身の岩手県遠野市にあります。ほとんど東京で育ってきましたが、祖父が林業を営んでいることもあって年に4回ほどは遠野に訪れているそう。

「川で釣りをしたり、山でかくれんぼをしたり、山で働いている人たちとご飯をたべたり。自分が自分でいられる場所はここだなってところがあります。」

「都会にいると都市にいると僕はだんだんと鬱々とした気持ちになってしまうけど。

自然はすごくシンプルなんですよね。もちろん複雑だけど、見え方としてはシンプルで美しい。そこの中の自分っていうものがすごく綺麗に見えて、すごく過ごしやすい感覚がある。それが原体験として大きいのかなと思いますね。」

小さい頃から触れてきた自然豊かな場で過ごす経験、自分らしくいられる場所。それを守りたいという感覚が彼の原動力になっています。

豊田さんの土台をつくったのは 好奇心と真面目さ

なぜ豊田さんはスタートアップを立ち上げるという挑戦ができたのでしょうか?そこには、どこまでもハマる好奇心と幼少期からの真面目な性格がありました。

実は小さいころは控えめで弱々しい子でした。いじられっ子で、女の子にランドセルを投げられてわーっと泣いて
いるとか。笑 いつも教室の端っこで歴史の本を読んでいました。」

挑戦するきっかけになったのは、小学4,5年の時に読んだというカーネギーの自己啓発本「道は開ける」を読んだ時だと言います。

「“死んだ犬を蹴飛ばす奴はいない”っていうフレーズがあって。僕はずっとビクビクしてた。蹴飛ばされるんじゃないかって。

自分が蹴飛ばされないんだって気づいたら、手を挙げるようになった。人は発表なんかでも99%お前のことを見てないんだから、表を出せよと。」

それから豊田さんは学芸会では主役を、中学の頃は生徒会長に。文武両道という船を乗りこなし、部活のフットサルでは全国大会出場も経験。

カーネギーの言葉に押され、成績も良く、学年トップを常に撮り続けてきた。真面目で頑張り屋な性格だと言います。

ところが、高校受験を機に受けた模試で初めて“挫折”を経験。

「ずっと井の中の蛙で、トップだと思ってきた。でも初めて受けた模試で東京都103位を取って、あ、東京だけで自分より上が100人もいるって。僕のエリート意識が打ち砕かれました。」

気を張って頑張ってきたからこそ心が折れ、燃え尽きてしまったそう。

「変わりたい」と思う気持ちから起業家教育を掲げる高校に進学。

高校時代は課外活動にどハマり。さまざまな学生団体で活動してきたそう。

「当時SDGsブームがあって、そこらへんで結構活躍していました。中学校にいると、環境とか少しこう馬鹿にされるノリがあるんだけど、学生団体で初めて真摯に・真面目に向き合っている人がいるんだと知って。その世界も面白いなと思いました。

校則などの問題にも興味があり永田町に通ったという高一時代。その後N校に転校し、今度は起業にハマります。建築DXやマーケティング会社を立ち上げたり、インターンにも関わったと言います。

「まあまあイケイケでしたよ。SaaSのマーケティングをやっていました。他にも合計7社くらいとも関わっていました。」


壁にぶち当たることで出会った森林。挫折と放浪

起業家としては順調に進んでいるように思いますが、さらなる挫折が待っていました。

「高一の9月に、共同代表と2000万円を溶かしてしまいました。いろんな大事なこととも重なりすぎて。どん底に落ちました。」

2024年の高二の春から夏ごろは、引きこもりと旅を繰り返したそう。そこでの出会いが彼を森林へつき動かすきっかけになりました。

「自然豊かな森の中のゲストハウスを巡りました。気仙沼の山と海に囲まれたり、北海道の安平町では教育系の分野にインターンとして関わったりもしました。放浪していくうちに、自然の関する知識や、感覚として愛着が湧いて、幼少期の頃の記憶と相まって森の価値に改めて気づきました。」

「森だ、やっぱ森なんじゃねって。人間は自然から出来ているからなって。」

その頃、豊田さん改めて林業を営む祖父と対話をしたといいます。

小さい頃から会っていたけれど、事業について詳しく聞いたことはなかったそう。


「林業の課題、迎えつつある限界、今の林業の現状…。は!このままじゃ日本の林業潰れるなって思ったし、日本の
森は死んでくなって思いました。」

スタートアップや起業分野でこれまで真面目に取り組んできた豊田さん。挫折を機に始まったという放浪では「自然」という世界観を感じ、そして、林業を営む祖父との対話で森林の課題を深く知るようになったといいます。スタート
アップ心や魂がそこでまた湧き上がってきたのです。

その時は森林に自分はすごい救われた気持ちだった。だからこそなんときゃしなきゃなって思って。林業を救えば
いいんだと思い、いろんなビジコンや起業家育成のアクセラレーションプログラムに応募し始めました。」

どうあがいても林業の中だけでは解決できないと思い、豊田さんはスタートアップという立場からテクノロジーを活用して、“これまでにない新しい価値を生み出せないか”と考えはじめたと言います。

「森林って、お金にしてはいけないみたいな無意識の思い込みがある。でも、これから100年を考えたとき、森林の
価値を多面的に見て、お金という形に翻訳していくことは大事だと思うんです。」

カーボンクレジットだけでなく、森林の持つメンタルヘルスや防災、水質改善などの機能にも注目し、社会的な価値へと転換していく。そんな新しい“森との付き合い方”を、彼は模索し続けています。


大切にしている問い

「これでいうと、ありきたりなんだけど、なぜ戦うのか。です。」

「俺はあえて戦わなければならない状況に自分を置いてきたから。それは自分自身ともだし、ビジネスとして市場と
戦わなきゃいけないってのも。でも、戦うことこそがやっぱ俺がいる意味だと思うし。戦わないと自分じゃないって
のはすごくある。だからこそ、森林界隈ってのをやっています。

人間って基本的には安全地帯にいたくなるもんだし、自分も自分自身に何度も安全地帯に行けとと言われている。
(苦笑)そんな自分自身も戦う。そんなことが軸としてあります。

また、俺は基本的に真面目なんですよ。歪んでいるものを見ると直したくなっちゃうんですよね。世界ってすごい
歪んでいるじゃないですか。いろんな場面で。

“えいえい!!正しいのはこっち!!”と。

それってめちゃくちゃ痛みがあるからみんなやらない。俺自身もあんまり良い思いはしない。

けど、自分のなあの信念というかやらなきゃいけないことは歪みを治すことなのだから、やらなきゃいけない。この戦い。」


取材はここまで・・・

学生団体やインターン、起業家としての活躍などを経て「森林」の価値創出に取り組む豊田さん。

環境保全をボランティア活動だけに留めず、カーボンクレジットやブロックチェーン技術などを活かす。テクノロジーを活かして「経済と環境の両立」を目指すアイデアはこれからさらに、大切になっていくのではないでしょうか。



編集後記

同世代とは思えないほどいろいろな経験を積み、大きなビジョンをもとに行動する英杜くん。僕は彼から多くの刺激をもらっています。足を運ぶと見えてくる森林の課題。この記事が森林とつながる一つのきっかけになれたら嬉しいです!


この記事を書いた人

リジェネラティブデザイナー/江澤哲哉(18)

生まれた時よりいい地球に!をテーマに、日々模索している高校生。“足元から人も地球もずっと元気でいられる世界をつくること”を目指して、さまざまな実践者を訪ねながら学んでいます。持続可能性にまつわるひと、もの、ことを映していくYouTubeの活動と、本マガジン「social roots」を運営する。岡山県美作市で活動する一般社団法人「と或る農園」の代表理事。

social rootsは、「根っこから未来を育む」をテーマに環境・暮らし・ビジネスにまつわる記事をお届けするリジェネラティブなマガジンです。

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