2025.06.08
「わくわく」からはじまる。土に還し野菜を育てるファッションブランドSyncs.(シンクス)とは?
[公開日:2025.11.22]
interview:廣田拓也〈Syncs.design共同創業者〉
interviewer:江澤哲哉
今回のテーマは、ハタケとファッション。
自然や未来のことを大切にしたい。そんな思いから、自分自身で畑をやってみたり、なるべく賢く買い物をしている人も多いのではないでしょうか。
今回は、東京都日の出町で畑をしながら、土に還る服をつくられているSyncs(シンクス)というファッションブランドを紹介します。

(公式サイトより)
「シンプルに言うと、土に還る服を作っています。素材は、プラスチックを使わず、そしてオーガニックコットン100%。でも“この洋服可愛いね”って言われるのが一番嬉しいよね。一生懸命作っているから、洋服として、憧れるようなブランドになれるといいなと思っています。」
そう語るのは、Syncs(シンクス)の共同創業者である廣田拓也さん。
Syncsへの想いや土に還ることについて、詳しく伺いました。

廣田拓也(ひろた・たくや) 愛知県豊橋市出身
東京農工大学 国際環境農学専攻修了 様々な会社・キャリアを経て、環境問題の当事者になるべく2018年に社会起業家としてSyncsを創業
Syncs.Design共同創業者
畑班長
生態系のしくみから着想を得た〈ゼロ・ウェイストと循環購入〉
Syncsでは、全ての過程でゴミを出さないしくみ(ゼロ・ウェイスト)を実現しています。
「生産」から「使い終わった後」のことまで考え、ゴミというものを生み出さないように、素材はオーガニックコットン100% 。使用後は土に還します。
最近は、包装や配送にも対応できるよう、再利用可能な配送バッグ「comvey(コンベイ)」を導入されました。

(公式サイトより)土に還すまでの循環をデザインする。

Syncsが提携を結んでいる再利用可能な配送バッグ「comvey(コンベイ)」配送された後はポストかバックを返却する仕組み。

梱包もプラスチックフリー。
なんといってもSyncsの1番の特徴は、土に還すこと。
「最後、燃やさずに生態系に返すから、誰のものでもないんです。僕らはこの服を、「循環購入」と言って無期限レンタルで販売しています。着終わった後は、返してねと。ぼろっぼろに着古されていたら。じゃあ畑で、それでトマト育てましょうかって話になります。」
返却された服は、その後人の手によって土に還されます。


実際にSyncs畑にて土に還しているという服と端切れの様子を見せていただいた。
触ってみると少しねっとりしています。廣田さんによると微生物によって分解されつつある証拠だと言います。
突然、廣田さんは小さい顕微鏡を取り出してその服を覗き始めました。
「いるいるいる。」

土に還りつつある服を顕微鏡で見させていただきました。これが服を分解している微生物。白い糸のようなもの(菌糸)が繋がり合い、ねばねばしているように見えます。
2025年6月28-29日には、2日間で展示販売会「SWITCH 2nd」が開催されました。その様子をお届けします。



来た方は、ミニ顕微鏡で服の分解の様子を見れるようになっている。夏はだいたい3週間ほどで分解される。

Syncs畑でとれたジャガイモなどの野菜を購入してくれた方に渡していた。それは来てくれた人に「服と畑と食」の境界線の曖昧さという生態系の世界観を醸し出している。

写真の後ろにあるのが、返却された服を染めたもの。植物や枝の力によって綺麗な黒に染まっている。
「境界線を曖昧にしていく役割がある。」
服ー土ー食。一見離れたものを並べる展示販売会。そこには廣田さんの深い生態系への想いがありました。
「なんか、そのSyncsって境界線を曖昧にしていくような機能を社会的に持ってるんじゃないかなと思ってて。
洋服は洋服、畑は畑じゃなくて、それがこうチャンプルされたような世界線をイメージしてて。
なんか、こう分けていくことっていうのを、あえて選択しないっていう。だって、洋服があったっていいじゃん。畑があったっていいじゃん。菌がいたっていいじゃんみたいな。」
服と野菜と、土に還す糸状菌がともに織りなす展示は、
それぞれがまったく異なるものではなく「服」「土」「食」に“つながり”があること。それを廣田さんは「チャンプルされたような世界観」という言葉で表現しています。
「生態系もそうで、そのそれ 1つで完結しているんです。それは動物も植物も微生物もその中にあって、その一瞬がほんとに一瞬ずつ組みわさってる様なイメージ。例えばで言うと、光合成と根圏の世界って、ほぼ同時に行われているように。」
廣田さんは、Syncsを始めて4年ほど畑に通い始めてから、今まで気にもしなかった地面が「生き物」であると認識でき、感動したと言います。
「生態系は、人間の力が容易に壊せるものだし、容易に壊せるんだけど、壊した後必ず復活するしっていう。その、自然の環境の力強さみたいな、儚さでもあり、力強さでもありみたいなのが『美しいな』って思います。」
「畑は畑ですとか。洋服は洋服です!じゃなくて、展示会の世界観として表現したかったのは、“あるよね”っていう(笑)。まあ、よくよく考えると、“なるほど面白いな”って思ってもらえるような設計をしています。」
伝えるために、あえて「言わない」こと。
「サステナブル」「エコ」「地球にやさしい」。
私たちにとって、もはや聞き慣れた言葉になったかもしれません。でも、これらの言葉をあえて使わないと廣田さんは言います。
「言うだけじゃ、何も変わらない」
話は、廣田さんが東京の大学に進学した頃にさかのぼります。
「とにかく東京へ行きたくて」と進んだ学科は、偶然にも「生態システム」でした。周りは環境問題に熱心な仲間が多く、熱い議論が交わされる日々の中で、廣田さんはある違和感を抱くようになります。
「一生懸命に環境問題を訴えているのに、現実の世界は変わっていないように見えて。あんまりにも環境環境って周りが言うから、ちょっと嫌になってたところがあったんです。」
環境への想いは確かに芽生えたけれど、それと同時に内輪だけに留まって盛り上がることへの違和感を覚えたと言います。
そして、ある気づきにたどり着きました。
「サステナブル」という言葉を使うことで、無意識のうちに境界線を作ってしまうのではないか、と。
「意識高い系」なんて言葉が生まれるように、どこか一部の人たちだけの世界になってしまうのではないかと。

「例えば、オーガニック野菜。“オーガニック”と聞いただけで、“体にはいいんだろうけど、どうせ高いんでしょ?”と思ってしまう人がいるかもしれない。
それなら、“普通に美味しい野菜です”と伝えた方が、より多くの人に届くんじゃない?と。」
「言葉で説明しすぎず、もっと直感で“あ、これいいな”、“欲しいな“と感じてくれることを大切にしたいんです。」
「この服かわいい!」と言われることが、一番うれしい
もちろん、こういうやり方は、すぐに伝わらないかもしれません。時間がかかり、もどかしいこともあるでしょう。でも、廣田さんはこう考えています。
「サステナブルの界隈だけに留めておくと、どこかで黙ってしまうと思うんだよね。
だからこそ、遠回りに見えてもも、境界線を生みださない道を選んだといいます。10年、15年をかけて。そして、一番の理想は、作った服が“かわいい!”と言われること。
すごい一生懸命作っているから。
なんか憧れるようなブランドになれるといいよね。洋服としてのブランドとしてね。」
サステナブルという以前に、“かわいい。素敵だな”という形容詞を生み出す。そこからはじめてより多くの人へと思いが広がっていくんだということを、Syncsは教えてくれるのではないでしょうか。
環境云々は置いておいて、「ちゃんとオシャレに、ちゃんとかわいく、ちゃんと素敵に。そういうアプローチをしていこうと思いました。」と言います。
「環境問題というと、内輪では知ってる人は知っている問題で、知らない人は知らない。そこに大きな境界線があって、それが環境問題に対するアプローチの一番弱いところだと思っています。」
「〜しなくちゃ」ではなく、「心が躍る」方へ。
「やらなくちゃいけない」「やるべき」とか「守らなくちゃいけない」。そういう文脈で語られるとどこか身構えてしまい、心が動かなくなってしまう。たとえ環境に興味がある人でも、うずうずするような経験があるのではないでしょうか。
でも、考えてみてください。
「かわいい洋服だ!」「着心地いい」「いいな」と持って服を買ったら、それがとんでもなく環境にいいことだったり、自分の考えを広げてくれるものだったら?
そっちの方が入りやすいし、心が踊るのではないでしょうか。


(上)Syncs運営メンバー (下)展示販売会の様子
運営メンバーが本気でわくわくし、自信をもって良いものを販売している想いが、来た方をやさしく包み込んでいるように感じました。
「かっこいい」のに、残念なファッションの現状
環境省の調査によると、日本では毎年約80万トンの衣料品が販売され、そのうち約50万トンが廃棄されているそうです。
資本主義社会のなかで、早く大量に安くというのは自然なことかもしれません。でも、ずっと続けていてはもったいないですよね。
「アパレルの大量生産大量廃棄とか、ラナプラザって縫製工場の崩壊とか、洋服って、かっこいい洋服とかある後ろ側が、結構ぐろいなって思って。“なんかかっこいいのにクソダサいな”と思って。もうちょっとかっこよく、ファッションの本当にいいところを、輝かせることができないかってのを直志くんと話しました。」

ラナ・プラザ崩落事故。死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出たこの事故は、ファッション史上最悪の事故とも呼ばれている。世界展開する欧米や日本のファストファッションが、バングラデシュの劣悪な労働環境や安価な労働力に依存して経営利益を上げている状況が浮き彫りとなり、論議を呼んだ。
サプライチェーンは、熱量で繋がった健やかなチームへ。
服のサプライチェーン、気をつけてること。関係づくりについて教えていただきました。
そのなかで、Syncsのモノづくりは、「熱い想いを持った人々に支えられているんだ」と廣田さんは言います。
「小ロットで生産しています。ファッション業界で、少数の服を生産する“小ロット生産”はとても難しいこと。それでもシンクスが挑戦できるのは、“俺のとこで縫ってやるぜ。”と、応援してくれる工場さんや工房さんがいるからなんです。」
工場さんに価格を下げるようお願いすることはないと言います。そもそも、オーガニックコットンでプラスチックを使わずに作ろうとすると単価が高くなるそう。
「ものづくりをすればするほど、プラスチックは偉大だなとは思いますし、本当に軽くて丈夫で、変形せず、素材として素晴らしいものだなっていうに思います。俺個人として“大量生産・大量消費・大量廃棄”で作られた繊維のTシャツを着てたってどうも思いません。」
それでも、「世の中にはこういうものもありますよと」という一つの表現として挑戦を続けています。
「やっぱ安くできないから、物としては、やっぱり 2〜3万円にはなってしまう。でも、我々は自信をもって良いものを作っているので。“お小遣い握りしめて、お年玉に握り締めてきて買うこと”はきっと、心が踊る体験になるんじゃないかと思うんです。」
大切にしている問いや考えはありますか?
Syncsの大切にしていることは、「違和感を感じたらそのままにしないこと」
違和感を感じたらそのままにしておかず、消化してこうよ!と。違和感というのはたぶん、自分たちらしさから離れているから出てくると思うんです。
「会話を滑らせないで、言ってこうぜ。」と。
「僕らはマルチの職業人でやってるから、意思疎通のミスマッチを起こすと結構重大なことになってしまうんです。違和感を流してしまうと、このチームは成長できなくなってしまうんですよね。」
違和感をチームで拾って変えていく。なので結構、一回一回かみ合ってる会話をすると言います。
「面倒くさいなとは思うんですけど、笑笑
けれど、戻ることがないので、歩みは遅いんだけどずっと進んでいるんです。」
「これはマルチタスクでやってるメンバーで集まっているチームビルディングの 1つ大切にしている問い。それは、違和感を一つ一つ拾いながら、ゆっくり歩んでいくこと。小さなことですが改めて大切にしたい考え方なんだと思います。」
大切にしている問いは、「やろうとしてるアクションが、自分たちらしいか?」だといいます。
一体、Syncsの『らしさ』とは、どんなものなのでしょうか?
「それは「わくわく」だよね。やっぱわくわくしてこうぜ!って。
それわくわくする?みたいな。それグッとくる?とか。そういうところをすごく大切にしています。事業をやってる人間が“わくわく・ぐっと”来なかった、それはお客さんに伝わらない。なんなら俺たちが一番ワクワクしていこう!と。」


(公式サイトより)
\Syncsの畑のコミュニティに来てみたい方へ/
もし、Syncsや畑に興味をもった方は、東京の郊外で行われている畑に来てみませんか?
Syncsの人と話してみたい/行ってみたい方は廣田さんまたは、@techan122(インスタ)のDMまでご連絡ください。
\Syncsの展示販売会に来てみたい方へ/

年に2回ほど開催される展示販売会。試着して実際にどんな感じなのか確認することができます。Syncsの公式インスタグラムにて告知されます。
熱量あふれる場と、交流の機会にぜひ来てみてはいかがでしょうか。
編集後記
所有という概念をなくした「無期限レンタル」や、着終わった服を「土に還す」という仕組み。それらの発想が、生態系の仕組みからサンプリングされている――。
僕は、そんな生態系を模倣したデザインに強く惹かれました。矛盾がなく、地球の循環にすっと溶け込むような服のあり方。Syncsのアプローチは「ファッション」だけれど、きっと他の分野にも広がっていく。そう思うと、これからの世界が少し楽しみになります。
この記事を書いた人
リジェネラティブデザイナー/江澤哲哉(18)
生まれた時よりいい地球に!をテーマに、日々模索している高校生。“足元から人も地球もずっと元気でいられる世界をつくること”を目指して、さまざまな実践者を訪ねながら学んでいます。持続可能性にまつわるひと、もの、ことを映していくYouTubeの活動と、本マガジン「social roots」を運営する。岡山県美作市で活動する一般社団法人「と或る農園」の代表理事。















