2026.08.12

「子どもたちに種を、未来に花咲くふるさとを。」ふるさとファーマーズが始める、神奈川・茅ヶ崎のリジェネラティブ農業×探究教育のモデルとは?【前編】


[公開日:2026.08.25]

interview:石井雅俊〈ふるさとファーマーズ 代表〉

Interviewer&Text:江澤哲哉


[この記事では、編集長の運営する「と或るラジオ」にて、ふるさとファーマーズ代表・石井雅俊さんをゲストにお迎えした全3回の対談を、記事として再編集しお届けします。]


「土壌さえ豊かになっていたら、僕がいなくても、きっと子どもたちは勝手に芽吹いて、大きな大木になったり、綺麗な花を咲かせたりするんです」そう話すのは、神奈川県茅ヶ崎市を拠点に活動するNPO法人「ふるさとファーマーズ」代表の石井雅俊さん。

後継者がいなくなった、鎌倉時代から続く農地を再生させ、約8000平米の広さの耕さない畑で野菜と米を育てる。ニホンミツバチを飼い、さらには、地域の小学校5校と手を組んで完全オーダーメイドの環境教育プログラムを届けています。今年2月には、その活動が評価され「第二回かながわ脱炭素大賞」を受賞されました。

石井さんに初めて出会ったのは、2026年8月2日、「里山クリーン」というゴミ拾いでのことでした。里山クリーンは、茅ヶ崎里山公園の周りの里山周辺を、茅ヶ崎の畑の仲間たち、地域の方々とともに里山の環境を守るために実施する毎月のゴミ拾い活動のこと。

立ち話のつもりが、気づけば小学校5校と連携した、環境教育プログラムのこと、耕さずに炭素を土に留めていくという話、そして最近始めたというニホンミツバチの養蜂の話まで、石井さんとの対話はあっという間に時間が過ぎていきました。

8/2に行われた里山クリーン。石井さんは一番右に

ちょうど私自身、岡山県の上山集落で「と或る農園」を営みながら、次に何をやっていこうかを考えているタイミングでした。中学生のころからずっと環境問題を探究する中で見えてきたのは、ワクワクするとか、美味しいとか、楽しいとか、心の底から安心するとか、そういう感覚を入り口にして、自然とのつながりを取り戻していきたいということ。それを自分たちだけでなく、もっと広い輪でやっていきたいということ。そして私は大学の教育学部で学びながら、「教育」というものの手触りを探しているさなかにいました。

石井さんの話には、そのすべてに応えてくれるものがありました。だから、改めて時間をとってじっくりと話を聞かせてもらうことにしました。


石井 雅俊(いしい・まさとし)

NPO法人ふるさとファーマーズ 代表。神奈川県茅ヶ崎市を拠点に、約8000平米の農地でリジェネラティヴ・オーガニックと呼ばれる不耕起栽培や養蜂を実践し、農地を活用した環境教育・地域づくりに取り組む。学校・大学・企業・行政と連携し、子どもたちへの農体験や脱炭素教育を推進。第2回かながわ脱炭素大賞・普及促進部門を受賞。


「ももたろう」のおじいさんがしていたこと


耕さない畑。そう聞いて、すぐにピンとくる人はほとんどいないだろうと思います。かつて私もその一人でした。私たちが教科書や絵本で見てきた「農業」の絵は、たいてい鍬(くわ)を持ったおじいさんが土を掘り返している場面から始まります。耕すことは、働くことの証だったし、実りへの唯一の道だと、なんとなく思い込んでいるでしょう。

でも、石井さんの実践するリジェネラティブ農業(不耕起栽培)は、地上部で刈って置くだけ。

「耕さない畑(不耕起栽培)」により炭素貯留によって温暖化の緩和と結びつくことから神奈川県脱炭素大賞を受賞されましたが、それがなぜ温暖化と結びつくのか、すぐには腹落ちがしずらいではないでしょうか。子どもに伝えるとしたら?そもそもどんな仕組みなのだろう?そう尋ねてみると、石井さんは少し考えるように間を置いてから、丁寧に言葉を選びはじめました。

石井さん:植物が二酸化炭素を吸うっていうのは、授業でも習うと思うんです。それを根っこごと引き抜いてしまうと、土の中に貯留されていたものが、また全部空気中に放出されてしまう。根っこを残したまま上だけ刈っていけば、二酸化炭素は固定された状態で土の中に残り続けるんです。

そこに加えて、耕さないことで土の中の微生物が活性化し、菌の多様性が増し、作物が栄養を取りやすくなって育っていく。これが「リジェネラティブ農業」、日本語では環境再生型農業と呼ばれる考え方の核なのです。付け加えて、石井さんが不耕起栽培のことを「これが正しい」ではなく「これが今の自分たちのお気に入りなんだ」と続けます。

石井さん:慣行栽培が悪者で、不耕起栽培がいいものとか、そういう世界線ではなくて。お互いそれぞれメリットデメリットがあって、農っていう大きなジャンルの中では認め合っていけばいいのかな、と思うんです。仮に慣行栽培が今全部なくなってしまった場合、食料を全部賄いきれるのかっていうことも同時に起こる問題だと思うので。だからゆっくり、これから先の畑とか農とか食べ物との向き合い方をみんなでもう一回話し合うことが必要じゃないかなと思っているんです。

それもそのはず、「農薬や化学肥料を使う慣行栽培も、もとをたどれば戦中戦後の食糧難という社会課題から生まれたもの」なのだと、石井さんは歴史を振り返って言います。今、食料自給の課題に加えて地球温暖化や生物多様性の喪失という新しい課題が重なってきた以上、やり方が変わっていくのは当然のこと。「正しさ」をひとつに決めつけず、その時代の課題に合わせて手段を選び直していくしなやかさこそ、次の世代にもっと持っていてほしい感覚なのだと、石井さんは静かに語ります。

実際、世界経済フォーラムの記事によると、世界の耕作地の40%でリジェネラティブ農業を行うと、約6億トン(CO2換算)温室効果ガス排出量を削減できるとされています。そのため、気候変動対策として注目を集めているのです。

不耕起栽培では、雑草の扱い方も変わってきます。抜くべき「悪者」としてではなく、草マルチ(土の上に草を被せること)にして生き物の住処をつくり、菌を増やし、結果として作物も育つ。「自分たちの作物」ではなく「みんなの空間としてのひとつの作物」を育てているのだという感覚です。実際、畑の土はふかふかで、絶滅危惧種であるカヤネズミの姿も見かけることができました。

草マルチの間をすばやく駆けていった「カヤネズミ」


ある日突然いつもの光景がなくなるのなら、僕はなにかやるべきことがある気がする。

そもそも石井さんはなぜこの道を選んだのでしょうか。伺うと、そこには3.11やコロナといった社会の変動を感じて模索してきた中での、「死生観」からなる「命の使い方」への想いがありました。

石井さん:今から6年前になるのかな。ちょうどコロナ禍で社会が変容していって、働き方も変わっていって。その当時は不動産会社で働いていたんです。しかも農地を見つけたら宅地にして、駐車場にしましょうよとか、アパート建てましょうよとか、そういう営業をしてたんです。

でも、コロナになって働き方が変わって、いろいろ考える時間が増えて。スーパーにふらっと寄った時に、コロナ禍で保護貿易でパスタとか小麦の商品がない時期があったんです。食料自給率が低いっていうのは、昔からずっと言われてた問題だったんですけど、実際にこんなに目の当たりにするのかって。今コロナで止まってしまうと、こういう食料が実際になくなるのかって、現実化した瞬間でもあったし...

変わりゆく日常と、数年するとまた元に戻る日常を視野に、石井さんは当時を振り返って「薄氷の上に立ってるような感覚があった」と続けます。

石井さん: 日本近郊で戦争などがあった場合とか、そういうものが起こった場合って、すぐにこういう状況って生まれてしまうんじゃないかなと。薄氷の上に立ってるような感覚があって。お金を稼ぐことに対して、もっとやるべきことって今あるんじゃないかなっていう風に思ったんです。

そこには死生観もあって、今もう僕は40になるんですけど。あと自分が元気で活動できる時間ってどれぐらいなんだろうなって考えた時に。本当80歳90歳まで生きるとしても、たった40年50年、もう本当折り返しみたいなところではあるので。そこで一生懸命お金だけ稼いでいって、地球が壊れていってしまっている現状を無視して、自分だけがお金を稼ぐってところに、ちょっと疑問を感じた瞬間があって。

さらにさかのぼって聞くと、東日本大震災の記憶からもその想いの輪郭がありました。

石井さん :当時、20代半ばぐらいで、震災の時は新宿にいたんですけど、駅も構内も全部動かなくなって、公衆街路をみんなぞろぞろぞろぞろ歩いていくっていう。本当に非常事態というか、ある日突然いつもの光景ではなくなってしまって。僕が盤石(ばんじゃく)だと思ってた世界って、こんな簡単にもひっくり返るんだみたいなことを経験して。

でも数年もすると日常が戻ってきて。またコロナになった時に、振り返ったんです。この10年でどう良くなっていったのか。って、むしろ全体を見た時に、悪化してる印象すら覚えたんですね。大人として社会で活動してるけれども、何もしてこなかったからこうなってんじゃない?っていうことにも、逆に突きつけられた感じがあって。

でもまた環境問題大事だぜって言いながら、自分は何一つアクションしてないのに、君たちやった方がいいよって言ったら、誰が言ってんのってなるじゃないですか。まずは自分がやらなきゃ、多分誰も聞いてくれないだろうなって。

「まずは自分がやらなきゃ」石井さんはそう決断し、いろいろな農家を訪ね歩き始めました。

石井さん :とりあえず一歩できること、畑にいろんな人たちに話を聞きに行こうって。お手伝いする中で、種がどういう育ち方をしていくのかがわからないとか、収穫してもこの大変さがわからなければ、本当の喜びみたいなものもわからないし。自分が体感として持ってなかったから、これは自分がやらないと、誰に対しても言えないし、わからない世界なんだなっていうのがわかって。まさに無知の知を、そこで初めて認識して。じゃあできることからスタートしてみようっていうので、とりあえず畑を借りてスタートしてみたんです。

石井さんがたどり着いたのは、鎌倉時代から続いてきたという茅ヶ崎の農家が、高齢化のために譲り受けることになった土地でした。

石井さん :今から思えばかなり無謀なんですけど、右も左もわからないまま畑をスタートしました。そういうところからスタートしたのが、NPO法人ふるさとファーマーズです。

本を読み、動画を見て、人に教わりながら、少しずつ知識と経験を積み上げてきた6年間。今では野菜や果物、お米、そして養蜂まで手がけるまでになりました。今でこそまさくんは環境問題のために尽力する姿がありますが、その原体験は、畑を巡る中で感じた体の声があったのだと、話を続けます。

石井さん: 夏のすごい暑さであったりスコールであったりとか。周りの農家さんも「こんなんじゃできないよ」とか、やっぱり変わっていくものもあったんです。よく知っていくと、農薬を撒いてたりすると、ミツバチが一番初めにいなくなってしまうって言われて...

ミツバチが死んでしまうと、スーパーの3分の1の、僕らが食べてるものが失われてしまうって言われてるんですね。だから大切なのは畑一個じゃないんですよ。この畑だけを完結すればいいってことではなくて、全体を見ていかないといけない、全部が連鎖的につながっているので。


ミツバチという、環境を教えてくれるパートナー

今年、石井さんが新しく始めたのが日本ミツバチの養蜂。令和8年8月8日朝8時に、「8(はち)」が並ぶこの日に最初の採蜜をしようと思っている、とゴミ拾いのあとの立ち話で教えてくれました。このインタビューをしている12日には、もう採蜜が終わり、ちょうどその奇跡の時間に採蜜できたことを聞きました。オレンジ色にきらめくはちみつは、地球の美しさを物語ります。

「里山を守っているのは、実はミツバチのようなポリネーター(花粉媒介者)たちだ」と、石井さんは言います。花から花へ実りを運び、里山と森を健全につないでいく。

そんなニホンミツバチの養蜂は、来てもらえる環境を整えるところから始まります。農薬を使わず作物を育て、お花を植え、木箱で作った巣箱を。気に入らない場所には決して住み着かないのだそう。だから、巣箱という「いい家」をまず用意します。最初にやってきたのは、200〜300匹の群れでした。

石井さん :ミツバチにとって「いいな」って思える環境をまず作る。そこから、彼らが安心して子育てできる環境をキープしていく。ミツバチは、その土地の環境の豊かさそのものを教えてくれる環境指標であり、パートナーなんです。

ミツバチが、土地の環境の豊かさそのものを教えてくれるパートナーである。それはどんなことなのでしょうか。石井さんは続けて、

石井さん:その農薬、農地で言ったら農薬でミツバチが死んでしまうってこともあるし、あとは綺麗な小川がないとダメだったりするし、あとは豊富な密原。つまりお花がたくさん咲いてるってことも重要なんです。また彼らがその里山に帰ってっても安心して暮らせるようなそういう自然環境が必要だし、それが逆に環境が大事なことを教えてくれる仲間みたいな感覚で、今も一緒にいるっていう感じですね。 


お金は、人生を走り切るためのガソリン

インタビューの中で、僕は自分自身の悩みも正直に投げかけてみました。「働くとは何だろう」ということを、最近よく考えていて…お金がないと生きていけないのは事実だけれど、では何のためにどれだけ稼ぐのか、その答えがまだ自分の中にありません。石井さんは、かつて年収一千万、数千万という世界で働いていた経験を思い出すように、少し天井を見上げてから、こう語ってくれました。

石井さん:いろんな考え方があっていいと思うんだけど。僕は個人的な経験から、僕は人生を走り切るためのガソリンだと思っているんですね。確かにお金ってすごく生きていく上で大事だし必要になってくるし、食べるものも買えないっていう世の中じゃないですか。ただそれがありすぎると、多分おかしくなってきちゃうのかなとも同時に思っていて。走り切る分まであればいいのかなって。逆に人生を走り切る以上のガソリンを持ってしまったら、いろんな危険がはらんでくると思うんです。たとえばプールいっぱい分のガソリンを家に貯蔵してますってなったら爆発しちゃうかもしれないし。盗まれるかもしれない。必要に応じて多分調達していくスタイルの方が多分いいと思っています。

確かに、多く持ちすぎていたら危険かもしれない、と私はふと感じました。そして、働くことそのものについても、これまでの経験から感じてきたお話を語ってくれました。

石井さん:これは、僕がミツバチとかミミズとかから学んだことなんですけど。ミツバチって自分のためにまあ蜜を集めてるんですけど、その蜜っていうのは、自分が食べるものもそうだし、次世代のために蓄えているっていうところがあるんです。次世代の幼虫が食べたり子育てに使ったり、仲間が越冬する分の蜜を貯めたりとか。

自分のために集めてはいるんだけど、自分のためだけでなく結果全体のためになってるっていう仕事をすごいしていて、それは内側に向けても外側に向けてもそうなんですよね。

外側にも広がるというのは、例えば植物を育てるポリネーターとしての役割です。

石井さん:ひまわり、かぼちゃ、イチゴとかで、いろんな蜜を集めて、でもそれが受粉の作業にお手伝いしていて、ここが実って。自分が一生懸命やってることが、この世界の一助になっているというか、そういう仕事をしなきゃいけないんだなっていうことを思わされてたんです。だから働くことが良いとか悪いとかではなくて、全体の循環の中での一部として働かないといけないんだなって思って、それがすごい僕は大事だと思うんです。

石井さんは今、NPOでの畑の活動と並行して、障がい者施設でも働いています。「誰かのため、社会のためになっているか」というものさしと、「自分に向いているか」というものさし。その両方が重なる場所で働くことが、心を疲弊させない働き方なのではないか、と。

「そういう観点を持っておくと。みんなが循環できるような社会がもっと生まれてくるんじゃないかなっていう風に思うんですね。」と石井さん。

生き物から学ぶっていうのがやっぱ面白いなぁと、私はつぶやきました。おそらくそれは都市部にいたりすると感じずらいが、畑にいたり、自然に根ざして生きる人たちと過ごしてるからこそ生まれる感性なのでしょうか。

石井さん:大前提として、人間の方が上っていう風に思ったら、多分学べないと思うんですよね。僕はなんか地球があっての僕らの社会生活だって思ってるので、自然とか地球の方が僕の中では尊敬すべき存在なのかなっていうふうに思っているんです。人間も自然の中の一部。例えばミツバチであり、野菜であり、その中の一部のジャンルが人間っていうことなんじゃないのかなって僕は思ってるから、だから学ぶべき師匠はたくさんいる。(笑笑)

で、自然にいるとなんか人間がいかにできないかってことも痛感させられるんですよね。なんか人間の社会の中だけにいると何でもできるように感じる。特に AIとかが発達してるし、何でもわかった風になって。でも実際に畑にいるとあの本当わかんないことだらけ。

でもその分「わからない」が楽しいし、「できないことができるようになること」が楽しい。そうやって、多くの人や、子どもたちに気づいてほしいところだなと思うんですけど、もう一回自然から自分たちのあり方を見るってことをした時に、本当にいろんなことが。何をすべきか何をしないべきかが見えてくるんじゃないかなっていうふうには思うんですよね。


ーー

インタビュー前編はここまで。

社会の圧倒的な変化を感じ、自分にできる「命の使い方」を模索する姿に、私は心が動きました。確かに稼ぐことは大切だけれど、何のためであるのか、どんないきものが飛び交う豊かな風景を未来に残したいと願うのか。そして大切なのは、自然の中の一部である人間として、大いなる循環の一助となる楽しい生き方。切なる想いを大切にする石井さんから、私もそれを大切にしたいと、強く願い直す機会になりました。

後編では、詳しく「教育現場」で関わられているなかでのお話や、5年後のリアルな暮らしといったさらに深くまで掘り下げたお話を綴りました。ぜひ、後編もお読みください。


この記事を書いた人

リジェネラティブデザイナー/江澤哲哉(19)

生まれた時よりいい地球に!をテーマに、日々模索している大学生。“足元から人も地球もずっと元気でいられる世界をつくること”を目指して、さまざまな実践者を訪ねながら学んでいます。本マガジン「social roots」を運営する。著書に『この星と僕のあいだに境界線はなかった」がある。岡山県美作市で活動する一般社団法人「と或る農園」の代表理事。

social rootsは、「根っこから未来を育む」をテーマに環境・暮らし・ビジネスにまつわる記事をお届けするリジェネラティブなマガジンです。

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